ブラジル IN MY HEAD
散髪は嫌いだ。
今までの俺を全否定される気分になる。
そして「新しい自分へ突き進め!」というメッセージを押し付けられてる気分になる。
別に美容師にそんなこと思われる筋合いねえし。
ちょっと人よりハサミの使い方が上手いからってあんま調子乗んなし。
こっちは髪型にこだわりないから自宅で坊主にしてもいいんだし。
とまあ強がるのはやめにして、本当に俺はオシャレとかに興味ないというかあまり出費したくないタイプなので、1ヶ月前から「明日の暇な時間で散髪行こう!」と思い続けての今日。
おかげさまで髪ボッサボサの代わりに散髪一回分のお金が浮いてる。
名付けて「明日やろう節約」。
いつかこの節約術で本出して、それが爆発的ヒットを叩き出し、テレビに引っ張りだこになって時の人となり、商標登録したいよね。
まあそのくらいにこだわりがないからいつも伸びたらバッサリいっちゃうんですよ。
それはもう6ミリソフトモヒカン。
時代が時代ならベッカム。
なんだけど。
今回は美容師さんに「お客さんならツーブロックの方がいいかもしれないですね〜」と死んだ顔しながら言われて、「絶対お前が練習したいだけだろ」と思いつつも承諾してみた。
思えば学生時代は校則厳しかったしツーブロックなんてしたことなかったんだよね。
だから実はウキウキしてたりもした。
そして完成を楽しむために目を瞑り、変貌の過程は闇の中。
鳴り響く刃と刃が髪の毛を挟んで触れ合う音。
美容師の痰が絡む。
体の芯に入り込んでくるバリカンの重低音。
美容師の痰が絡む。
待合席で無造作にめくられる週刊文春の音。
俺の痰が絡む。
そんな「痰」が5割を占める闇の中に美容師の「後ろこんな感じで大丈夫ですか?」という一筋の光が差し込む。
ゆっくりと、未来を乗せた重い瞼を開ける。
そこにはブラジルのヒップホッパーがいた。
いや、俺なんだけど。
顔と髪型が合ってなさすぎて、びっくりした。
美容師は「しっかりセットしたら大丈夫だと思います!」って言ってた。
いやセットしてなかったらダメなやつやん。
とりあえずヒップホッパー感出すために、チェーンのネックレスとストリートバスケやってそうな服買ってきます。